豆蔵ソフト工学ラボ所長の羽生田です。
あっという間に2009年もいよいよ年末の12月になってしまいましたが、最新号の豆蔵コラボ記事をお届けいたします。

日本ではこの夏に政権交代が起きましたし、世界に関してもリーマンショック以来の経済不況のみならず、米国の動きが大きく変わり、アジアでは中国の存在感がいよいよ大きくなり、イスラム世界は中東もアフリカも混迷を深め、ヨーロッパもEU新大統領選出を中心に動き始めています。

ITの世界も同様に今大きく様変わりしようとしています。クラウド・コンピューティングに代表されるように、IT技術そのものが『公共インフラ』としてガス・水道・電気のように世界中どこでもインターネット経由で自由に利用できるようになり、そのインフラを前提にして今までのSIビジネスは徐々に崩壊し、ITのパワーが、ITとビジネスが融合した『サービス』とその自由な組み合わせという形で様々なビジネスプロセスの窓口としてパブリックに提供されるようになりつつあります。

こうした状況の中でITに関わるわれわれエンジニアはいったいどのように考え、どういう方向に進んでいくべきなのでしょうか。

こういう変革期ほど、「即戦力」が役に立たない時代はありません。そもそも今まで当然だと思っていた、Javaプログラミングやオブジェクト指向技術、RDBやトランザクション、同期型の手続き呼び出し、といった概念が根本的に見直しをされているわけですから。こういう時代ほど、コンピュータサイエンスの基本的なセンス、人文社会歴史の知識ではなく大きな枠組みに対する基本的な素養が求められることになります。

Smalltalk以来のシーケンシャルな手続き呼び出しとしてのメッセージパッシングを当然と思って構成されているJava言語も、今後はマルチコアCPUや超並列環境でのコンピューティングが当たり前の世の中になり、プロセスとオブジェクトの関係性の見直しやメッセージとはなにかを考えることで、関数型計算モデル、並列オブジェクト指向やアクター理論がもう一度見直される必要があります。つまり、コンピュータサイエンスの概念を知識として知っているだけでは済まなくなり、その概念がそもそもどういう経緯で生まれそのような制約のもとで現在に至っているのかを自分の頭で追体験するようなスタンスでの学習が求められているのです。

これは実際のコンピュータの歴史が富士山だとすると、富士さんの重要な特徴点やマイルストーンを踏まえたバーチャルなミニ富士を自分の頭の中でもう一度再構成し、そのミニ富士の登山を体験する(これは江戸時代に関東圏で盛んに行われた富士講による「お富士さん」造りと似ています)ことで、本物の富士登山の概念ツアーを行う、ということに他なりません。

前回紹介した豆蔵内外のさまざまな勉強会での試みもそのようなテーマを裏に持っていますし、豆蔵が提供する各種セミナーやトレーニングコースも常に基本と実践の両方を視野に入れてカリキュラム設定されています。

なお、今回で豆蔵コラボ開始からほぼ1年が経過しました。皆様のおかげで1年間続けることができました。これからも読者のみなさまのご要望に添うべく、基本にいつも立ち戻りながら、新たな技術や理論を現場と結びつけるヒントを提供できればと思っております。

今後ともよろしくお願いいたします。

なお、最初の号からずっと豆蔵コラボ記事の編集事務局をやっていただいていた福井直樹さんは今号で担当から外れます。1年間お疲れ様でした。