はじめに

こんにちは、 豆蔵でエンジニアの教育を担当しています志賀です。

豆蔵では、さまざまな教育サービスを提供しています。高い受講料を払ってまで受けるサービスですから、当然のように成果が求められます。この教育サービスの成果とは、学習した内容が実務で使えるようになることです。そのため、私たち教育に携わるコンサルタントは、どうしたら後日、学習した内容を思い出し、実務に適用できるかを日々考えています。

さて、OJTを実施しておられる企業のご担当者からよく受ける相談があります。それが、「新人に教えても、教えたことが右から左に抜けてしまう」という悩みです。そこで、今回は、ものごとの「記憶」について考えてみたいと思います。

人間の記憶には、種類があることをご存じでしょうか?

  1. 感覚記憶
  2. 短期記憶
  3. 長期記憶

と呼ばれる種類です。

1つ目の感覚記憶とは、視覚や聴覚などをとおして、ものごとの特徴だけを抽出した記憶のことです。つまり、頭の中に想像したイメージです。小説などを読んでいて、その場面を思い浮かべる状況と同じです。このイメージは、一瞬にして作られますが、消えるときも一瞬です。長くて、1~2秒と言われています。問題は、イメージを作り上げる作業を完了したことに満足してしまい、「理解できた」と多くの人が誤解することです。

2つ目の短期記憶とは、感覚記憶の中から注意して選別した結果、保持される記憶のことです。映画や小説の印象的なシーンと言えば良いでしょうか。この短期記憶は、意識してイメージを感じようとするため、感覚記憶に比べて長い時間残ります。しかし、記憶に残っても数十秒から数十分です。これでは、教わったことを実践に活かせません。実践で活かすには、少なくとも次の段階、つまり長期記憶への昇華が必要なのです。

最後の長期記憶とは、短期記憶を繰り返し思い出すことによって作り出される記憶のことです。この長期記憶はほぼ恒久的な記憶であり、教わったことを実践で活かすには、このレベルにまで記憶を昇華させなければいけません。つまり、教える側は、感覚記憶をどのようにして長期記憶にまで昇華させるのかを考える必要があるのです。

何かを教えようとして、私たちはさまざまな言葉を使って相手に伝えます。聞いたほうは、内容を一瞬にして感覚記憶としてとらえます。そこで、中堅社員であれば、何が重要で、何が重要でないのかを判断できるため、必要な内容を短期記憶にまで比較的容易に昇華させます。

しかし、すべてが重要に思える、もしくは実感がないためにすべてが重要に思えない新人は、重要性の判断ができません。その結果、感覚記憶のまま短期記憶には昇華されずに、次から次へと教わる新しい内容に忙殺されることになるのです。

私たちのように講師のプロフェッショナルであれば、声の抑揚、話のスピード、身振り手振り、図解などさまざまなテクニックを場面に応じて使うことで、効果的に短期記憶への昇華を助けることができます。しかし、こういったことはプロでなければ難しいでしょう。そこで、簡単にどなたでもできる手法をご紹介します。

やり方は、いたって単純です。繰り返すのです。教えたことのうち、重要なポイントを一定の時間経ってからもう一度話すだけです。テキストなどを用意しているのであれば、「まとめ」のページを作っても良いでしょう。たったこれだけのことですが、重要性の判断ができない新人にとっては、ポイントが明確になるため短期記憶に昇華しやすい環境を作り出すことができます。このやり方は、学校で教わった後に、塾でポイントを教わるという、近年の学生教育のやり方に似ています。そのため、新卒者にとってはなじみが深い手法であり、その効果も比較的高いのが特徴です。

なお、このとき、気をつけなければいけないのが、「繰り返し」をするまでの時間です。「繰り返し」までの時間は短すぎると進捗が遅れる原因となりますし、長すぎれば忘れてしまう可能性が高くなります。では、どのくらいの時間ごとに「繰り返し」を実施すれば最適なのでしょうか。

一つの目安が人間の集中力の限界時間です。人間の集中力の限界は、90分と言われています。しかし、新しいことを学ぶのに、90分は長すぎます。なぜなら、学習者は、混乱している可能性が高いからです。新しいことを学ぶ新人は、前提知識もない上に、学んだことを咀嚼する前にさらなる新しいことが頭の中に入ってくる状況にあります。そのため、新人の頭の中は新しいことだらけであふれかえってしまい、パニックを起こしているのです。このパニック状態が90分間も続けば、心身ともに疲弊してしまい、防御本能から学ぶことを本能的に拒絶するようになります。理性では、学習しなければと考えているため、それでも必死に次の時間も頑張りますが、効率は上がるどころか、下がる可能性が高くなります。

お奨めの「繰り返し」までの時間は、15分です。15分という時間は、人間の集中力の波に合わせた時間です。人間の集中力は、限界時間まで常に最大の状態ではありません。集中しているとき、集中していないときの波が、だいたい15分ごとにやってくるのです。テレビのコマーシャルがだいたい10~15分間隔で入るのも、長すぎると集中力が続かず、番組に飽きてしまうからです。ですから、集中状態が途切れ、すこし落ち着いたときを見計らってポイントを再確認してあげるようにしましょう。

繰り返しますが、人間の記憶は聞いただけでは忘れるように作られています。ポイントとなる部分がわからない新人にとって、忘れないようにすることは難しい作業です。ですので、教える側がポイントを繰り返し教えてあげましょう。繰り返すタイミングは、15分間に1回程度です。これだけのことで、ずいぶんとOJTの効果が変わるはずです。それほど手間がかかることでもありませんので、ぜひ、一度お試しください。

今回はここまでとさせていただきます。

次回は、短期記憶から長期記憶への昇華手法についてお話ししたいと思います。