前回のふりかえり

こんにちは、豆蔵の武田 知久です。『プロジェクトマネジメント 現場でのプラクティス』ということで、当社のお客様である株式会社マネーパートナーズソリューションズ(以下、MPSと省略いたします)の証券システムプロジェクトをすすめるなかで得られました、さまざまなプラクティスを紹介する連載の最終回となります。

前回第2回では、『おしゃべりする相手は、ヒトだけにあらず』というタイトルで、コミュニケーションの対象はヒトだけにとどまらず、開発しているシステムを中心にして、ソフトやハードといったあらゆるモノとコミュニケーションする必要があることをお伝えしました。

最終回では、そのシステムを本当に使うヒトを見つけだすプラクティスについて紹介したいと思います。第2回の最後で、マネーパートナーズ社(以下、MPと省略致します) IT統括部門のIさんから「このシステムって、財務会計データが発生しますよね?説明する部門が足りないのではないでしょうか?」とご指摘をいただいて、「そんなことはないはずですが・・・」と、しどろもどろになったところで終わりました。今回は、その続きとなります。

業務をおこなうヒトを見つけだす方法

MP社にかぎらず、証券システムはフロントシステムとバックシステムという構成が一般的です。フロントシステムでは、お客さまの注文を取引所などに取りつぎます。バックシステムでは約定にもとづいたモノとカネを取り扱い、その情報を証券保管振替機構(ほふり)とやり取りします。バックシステムではカネを取りあつかうため、財務会計データが発生します。

MP社でも財務部門が財務オペレーションや財務諸表の確認を行っております。今回のIさんのご指摘は、財務データが発生する業務について財務部門への説明が必要なのでは、というものでした。同部門に説明をしていなかった理由は単純で、わたしが本システムの「システムユースケース」で洗い出したユースケースに関与するアクターに対して、デモンストレーションへの出席依頼を忘れていたためでした。システムユースケース上では、たしかに財務部門の財務処理についても洗い出していたのですが・・・

システムユースケース」の詳しい説明は省略いたしますが、アクターがどのようにしてシステムとやりとりするのか、ステークホルダーの観点で要件をドキュメントとしてまとめたものです。

本プロジェクトでもビジネスユースケースで業務および関与するユーザーを洗い出したあとに、システムユースケースを作成しました。両ユースケースでは、財務部門に対する要件を洗い出していたため、すぐにシナリオ説明およびトレーニングに取りかかることができました。また、財務部門のユーザーの皆さまにも、実際にシステムを利用していただき、業務の観点から漏れがないことを確認していただくことができました。この体験で得られたプラクティスは、次のとおりです。

  1. 「ビジネスユースケース」「システムユースケース」を作成し、顧客の業務やアクターに過不足がないことを確認しましょう。
  2. 顧客とともにシステムを使用し、ユースケースのシナリオ検証を行いましょう。

MPS社では、ユースケース駆動開発を駆使して、お客さまの業務をビジネスユースケースとシステムユースケースを用いて洗い出し、適切にコードへ反映したシステムの開発を続けております。今後も、この方法をベースに、より一層精度をあげることでお客さまにご満足いただけるシステムを開発していくことでしょう。

業務とそれに関係するヒトを最初に見つけ出すことが、大切です。

オンサイト顧客以上の顧客

MPS社およびMP社では、プロジェクトを円滑に進めることができる良好な環境がそろっているといえます。そのもっとも大きな理由として、MP社社員の方にオンサイト顧客として積極的に参加していただける風土である、ということが特長としてあげられます。

証券プロジェクトチームも、MP社のオンサイト顧客の皆さまとシステムの仕様についてあらゆる議論を交わし、システムを構築しました。そして、そのシステムを使って、アクターとして関与するMP社のあらゆる部門の方にトレーニングを行いました。そして「オンサイト顧客以上の顧客」とでもいうべき人たちが存在することに気付かされました。

その人たちはMP社のコールセンター部の皆さまでした。同部は外国為替証拠金(FX)取引を行うお客さまに対してFX取引システムでの取引の方法をはじめとした、あらゆる問い合わせに対応されております。そのため、同部の人たちがシステムを見る目はオンサイト顧客と同じかそれ以上で、コールセンター部の皆さまの真剣さに圧倒されることがしばしばありました。また、同部の指摘により重大な不具合をトレーニング中に発見することができました。この教訓から得られたプラクティスは、次のとおりです。

  1. オンサイト顧客以外の、そのシステムに関係するアクターに対して、可能なかぎり早い段階でシステムを使用したデモンストレーションを行いましょう。とくに対外部の顧客に接することが多いアクターは貴重な意見をもたらしてくれる、重要なヒトたちです。

この気づきの結果、MPS社ではMP社のオンサイト顧客以外の人たちに対しても、積極的にデモンストレーションを行うようになりました。厳しいご意見をいただくこともありますが、よいシステムを提供させていただくための関門ということで、ほぼすべてのプロジェクトで取り組んでおります。

オンサイト顧客以外の顧客も常に意識して、システムを見てもらいましょう。

プラクティスとプロジェクトマネジメント、そしてリーダーシップとの関係

本連載の第1回目では「チームのミッションや責務を明らかにするためコミュニケーション」を重視するプラクティスを取り上げました。第2回目では「システムと各ステークホルダーとのコミュニケーション」を重視するプラクティスを取りあげました。そして、第3回目では、「チーム外のコミュニケーション対象を見つけ出す」というプラクティスを取りあげました。図1 に本連載で紹介したプラクティスをまとめました。

図1:連載で紹介したプラクティスのまとめ
図1:連載で紹介したプラクティスのまとめ

プロジェクトには、出身や経歴、期待される役割の異なる数多くの人たちがかかわります。そのためプロジェクトに与えられたミッションをチームで共有し、チームメンバー間の意識の違いを日々調整して、チームが最高のパフォーマンスやバリューを発揮するようにお膳立てをしてあげることが、プロジェクトマネジメントとして必要になります。

連載で紹介したプラクティスと、実際のプロジェクトでの流れをマッピングすると、図2 に示した内容になります。

図2:プラクティスとプロジェクトマネジメントでの対応関係 図2:プラクティスとプロジェクトマネジメントでの対応関係

くりかえしになりますが、本プロジェクトで得たプラクティスの多くは、プロジェクトおよびチームがいかにパフォーマンスを発揮するか、という点が中心となっております。ジョン・P・コッター著の『リーダーシップ論』でも、「日常においてチームがその力を充分に発揮するように、チームに秩序と安定をもたらすこと」が広義のマネジメントとして大事であると、定義されております。

プロジェクトマネジメントとあわせて語られることが多いリーダーシップについても触れておきたいと思います。「リーダーシップはその個人に備わった資質である」と誤解されていることが多いように思われます。たしかに天性のリーダーシップを備えた人がいるのも事実です。しかし「リーダーシップは、仕事を適切に実践することで習得することができるもの」と定義することができるのではないでしょうか。

プロジェクトを適切にマネジメントすることで得られた改善ポイントや意識改革を、チームやプロジェクト、組織全体に浸透させていくことがリーダーシップなのだと考えます。 日々の取り組みの中で得られた気づきを放置せず、改革や処置を加えながら足腰を強化していくことで、組織が危機に直面した時に、自然発生的に「リーダーシップ」が生まれてくるのではないかと思います。

MPS社では、個別プロジェクトで発生した課題に対する改革の取り込みを、中立的な組織を形成することで実現しています。その取り組みの結果であるのか分析を行っておりませんが、プロジェクトが危機に陥りそうなときに、適切な人がリーダーシップを発揮するまでの初動が、以前と比較するとかなり速やかになっていると感じます。

プロジェクトを適切にマネジメントすることで、リーダーシップが生まれる。

本連載の最後に

この記事は、MPS社の証券プロジェクトをすすめていくなかで経験した実体験をもとに記述しております。本連載のあいだにも、同社が提供する証券システムはまったく新しいものへ生まれ変わろうとしていました。そのプロジェクトも、ひきつづき同じチームで行うことができて、貴重な気づきを得ることができております。

先般、証券プロジェクトのフェーズの区切りで「プロジェクトのふりかえり」を実施しました。そこで得られた意見で、「情報共有の仕組みがプロセスおよびツールともに充実していてやりやすかった」「チームのムードも非常に良好であった」というものがありました。その一方で、「新メンバーへのフォローが不足していた」「外部システムへの仕様伝達が不足していた」など、コミュニケーション面での課題を指摘する意見もありました。これらの課題は、今後のプロジェクトで改善をはかるべく、チームおよびMPS社の組織として取り組みたいと考えております。

さて、最後になりますが、MPS社の証券プロジェクトにおいて、わたしたちプロジェクトチームを支えていただいた執行役員の風間淳一郎様、代表取締役社長の小西啓太様、そしてプロジェクトを一緒にすすめてくれた多くの皆さまのご協力なくしては、いままでの数多くのプロジェクトを無事完遂することはできなかったと思っております。あらためまして、皆さまのご協力に心より感謝申しあげます。

また本連載において貴重なご意見を皆さまよりいただき、本当に恵まれていたと感じております。これからも引き続きご指導、ご鞭撻をいただければ幸いでございます。 今後ともよろしくお願い申しあげます。

(おわり)