もっとも身近なエンジニアリング

豆尾さんは料理がとても上手です。おせち料理も手作り四段重が当たり前。おいしいだけでなく見た目も美しく、しかも栄養のバランスも良いときています――

ただ食生活が充実しているだけなら「あら、素敵ねえ。とても真似できないわ、仕事も忙しいし。」と言って終わらせてしまいそうな話ですが、「豆尾さんは料理が上手だから家族全員が健康だ」となると態度も違ってくるのではないでしょうか。ソフトウェアの世界でも「あのプロジェクトは優秀なPMがいたから上手くいった」と言われれば、一体何が違うのか知りたくなるものです。栄養学の分野では、食料品製造のための「食品工学」の他はあまり「工学」という言葉は使われていないように思いますが、個人の日常的な「食」の中には工学的なエッセンスが多く含まれています。ソフトウェアエンジニアリングと「似てる!」部分を発見し、食生活を見直してみませんか。

改善のための資源

食生活を始めとする生活習慣に起因する病気を予防しようと、厚生労働省はさまざまな取り組みをしています。取り組むためにはコストがかかるわけですが、この予算を確保するために昔から言われているのが「病気になる人が減れば医療費が削減される」という台詞です。どこかで聞いたことがありませんか?

そう、ソフトウェア開発にまつわるあれこれです。レビュー・インスペクションの実施や、テストによって然るべき時期に品質を確保すること。あるいは、正しい要求を引き出す活動など。このような業務の習慣を改善することで「不具合の修正や根本的な作り直しにかかる費用を減らすことができる」というのが、ツールや指導者・開発者など人材の導入にお金をかけても良い理由となっていますよね。

私はある心臓外科医のブログを読ませていただいているのですが、毎日心臓の手術に追われているその方によると、患者さんの家族が「もっと食生活に気をつけてあげていれば...」と自分を責めるケースが多いのだそうです。ご家族には、心臓疾患の危険因子は肥満だけではないので気にしないように伝えているとのこと。そして、メタボリック症候群を本気で信じているのはおかしいと主張されています。

確かに、特定検診はメタボリック症候群に注目したもので、腹囲測定とBMI(体重kg ÷ 身長m ÷ 身長m)を基準値としています。喫煙や高血圧などの危険因子があっても、肥満でなければメタボリック症候群には該当しません。なるほどと思う一方で、明らかに体に悪そうな食生活をされている人がいるのも事実です。

最近は遺伝子レベルで自分の持っている疾病リスクを把握できるようになりましたが、自身のリスクを知った人は、積極的に生活習慣の改善に取り組むそうです。やはり自分自身のことだと実感すれば、真剣になります。現時点では遺伝子診断を受けている人はそれほど多くないでしょうから、誰にでもリスクはあるものと捕らえ、一般的に良いと言われている生活習慣に改善していくのが最善策ではないでしょうか。

なるほど、でもどうやって?

ではどうやって食生活を改善していけば良いのか、お料理上手の豆尾さんにコツを伺ってみましょう。

豆尾「んー、特別なことは何もしてないわ。ただ、子供の頃から食べてきたお料理を作っているだけだから...」

このような発言はソフトウェアの世界でもよく聞かれます。

「それは個人のスキルによるよ。」

「当たり前のことをやればいいだけのことなんだけどな。」

確かに、その通りです。でもスキルや経験が無い人はどうすれば良いのでしょう?スキルのある人の真似をして少しずつ上手くなっていくしかないのですが、何をどう真似れば良いのでしょうか?

幸い食事摂取量には国家的な「標準」があります。その名も「日本人の食事摂取基準 」と言います。以前は「日本人の栄養所要量」という基準があったのですが、こちらは栄養素の欠乏症の予防を主な目的としていました。「日本人の食事摂取基準」は過剰摂取の予防という観点を取り入れ、基準を決める際には科学的根拠に基づくことを基本とするなど、時代に合った新しい基準です。

食事摂取基準は、3つの基本的な考え方に基づいて策定されています。食生活以外にも参考になりそうなので引用しておきましょう。

  1. エネルギー及び栄養素の「真」の 望ましい摂取量は個人によって異なり、また個人内においても変動する。そのため、健康の維持・増進と欠乏症予防にとって「真」の望ましい摂取量は測定することが非常に困難であるので、望ましい摂取量の算定においても、活用においても、栄養学のみならず確率論的な考え方が必要であること。
  2. 生活習慣病の予防を特に重視し、このことに対応するために、「摂取量の範囲」を示し、その範囲に摂取量がある場合には生活習慣病のリスクが低いとする考え方を導入すること。
  3. それ以上の摂取量になると、過剰摂取による健康障害のリスクが高くなってくることを明らかにすること。

自分の身に何か起こったとき他人のせいにしなくて済むように、新年の目標設定と同時に「食」に何を求めているのかを明確にして、改善の必要性を検討してみるのも良いかもしれませんね!

参考文献

日本人の食事接取基準(2005年度版)について

次回は

「日本人の食事ナントカ基準、読もうと思ったけど40ページもあるし、なんか数字がいっぱい書いてあってよくわからないんだけど。」

そんな声に応えるべく開発された、栄養学の世界に存在する様々なツールをご紹介する予定です。